ヒルトップにようこそ 31

 マスターのクルマで綾子と佐知子のマンションの前に着いた時には、8時をまわっていた。マンションの駐車場を見た茉莉は、
「あら、まだ戻ってきてないみたい」
とつぶやいた。
「あの、空いたとこ?」
昨日、佐知子が駐車した場所が一台分空いたスペースになっている。ヴィッツはなかった。
「うん、でも、綾子さんはいるみたい」
「なんでわかる?」
「だって、あそこが確か綾子さんと佐知子さんの部屋だもん。灯り点いてるでしょ」
茉莉が5階を指さした。確かに503号と思われる部屋は灯りが点いていた。
「面接終わってコンパでも行っちゃったかな」
「ま、しばらく待ってみるか」
マスターのユーノスから流れる洋楽のCDを聴きながら、しばらくそのまま待つことにした。
「やさしい曲ね。なんて曲?」
「『Time After Time』・・・もう、二十年くらい前の曲だけどな」
「あたしがまだ、赤ちゃんの頃だわ」
「オレもまだ生まれてないな」
「うそつき」
昨夜(ゆうべ)よく眠れなかった茉莉は、シンディ・ローパーを聴いているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。

 『Girls Just Want To Have Fun』のにぎやかなイントロで目を覚ました茉莉は、
「やだ、眠っちゃった。ごめんなさい」
と言いながら、マスターの様子をうかがいながら、
「・・・どのくらい眠ってた?」
と、恐る恐る聞いてみた。
「CD一周半くらいかな。まだ帰ってこないぞ」
まったく気にする様子もなく、マスターが答えた。佐知子の駐車スペースは相変わらず空いていた。クルマの時計は九時を過ぎている。
「明日にしようか。今からひと仕事ってのもつらいだろ」
「ごめんね。一人で寝ちゃって」
「うーん、セリフだけ聞くと妙に赤面してしまうな」
ボソッと独り言のようにつぶやいたマスターの言葉の意味を理解するのに、少し間があったが、意味がわかると、茉莉の方が赤面してしまった。
「じゃ、送ってください!」
真っ赤になって茉莉が言うと、
「アイアイサー!」
少し慌ててマスターが答えた。
 家の前まで送ってもらった茉莉は、
「今日はいろいろありがと」
と、素直に言えた。明日が勝負だ。

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