ヒルトップにようこそ 32

 翌朝、モーニングサービスの時間帯を忙しく立ち働きながら、茉莉は、佐知子にどう切り出したものか、頭を痛めていた。何とか上手に話をもっていって、自分から告白するように仕向けられないか。それとも、やはりあまりまわりくどくするのはやめて、単刀直入に言った方がいいだろうか。
 ぐずぐず思い悩んでいるうちに、モーニングサービスの混雑も一段落ついてきた。そろそろ佐知子に連絡を取らなきゃ、と考え始めた時だった。青い顔をした佐知子が、店に飛び込んできた。思わず駐車場に目をやったが、佐知子のクルマは確認できなかった。
「い、いらっしゃいませ」
妙にドギマギしてしまっている。落ち着かなきゃ、と、自分に言い聞かせながら、茉莉は佐知子のもとへ向かったが、落ち着きを失っているのは、むしろ佐知子の方だった。昨日やって来た時の快活な笑顔とは似ても似つかないような、無理にはり付けたような、こわばった笑顔・・・むしろ泣き顔に近い・・・で、消え入るようにつぶやいた。
「クルマ・・・盗られちゃった・・・の。茉莉さん・・・探してくれる?」
その声はまるで、一昨日初めてやって来た時の綾子の声とそっくりだった。
「ゲホッ、ゲホッ!」
カウンターの奥で、タバコを吸いながら、それとなく様子をうかがっていたマスターが、むせた。
 茉莉も、「えっ?」と、聞き返したい気持ちでいっぱいだったが、か弱いながらも、はっきりと、聞き違える余地のないほどはっきりと、聞こえてしまった。「クルマ、盗られた」と。
 茉莉とマスターは、お互いに顔を見合わせ、そして佐知子を見た。佐知子はうつむいたまま、立ちすくんでいる。茉莉もマスターも、いったい何といえばいいのか、見当もつかなかった。
 カウンターから出てきたマスターが、
「まずは、座りましょう。今、あったかいコーヒー持ってきますから。茉莉ちゃん、ご案内して」
と、促した。茉莉は、佐知子の肩に手を当てて、抱きかかえるような格好で奥の席・・・一昨日綾子が座っていた席に掛けさせた。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック