ヒルトップにようこそ 36

 事情がわかってくるにつれて、茉莉の気持ちは軽くなってきた。佐知子が本気で盗もうとしたわけではなかったことが確認できたのが嬉しかった。だが、問題は佐知子の気まぐれでは済まないところまで来てしまっている。茉莉は、今、もっとも気になっていることを恐る恐る尋ねてみた。
「ところで、指輪は、まだクルマの中に入ったままなの?」
胸につかえていたことをすっかり吐き出して、ホッとしたような表情になっていた佐知子の顔が、再び曇った。
「うん。だから、何としてもクルマを取り戻したいの。クルマはどうなってもいいから、指輪だけでも取り戻したいの」
茉莉にすがるような目になった。茉莉は、内心自信なかったものの、精いっぱい力強く答えた。
「わかったわ。私も出来るだけ力になりたい。『スコープ』してみましょう」
佐知子だけでなく、自分を力づけるためでもあった。
「すみませんが、おでこを出してくれる?」
どんな映像が出てくるか不安だったが、興味深くもあった。クルマなんていう大きなものをスコープするのは初めてだ。どんなふうに見えるのか、想像もつかなかった。
 佐知子の額に手を当てて、目を閉じた。
 ・・・?・・・!
 まぶたに浮かんできた映像は、・・・綿があって、黒っぽいプラスティックのケースに入った・・・。これは、一昨日、綾子の額でスコープした映像とほとんど同じだ。よく見てみると、少し位置関係なんかが前回とずれている。指輪はそのまま転がっていて、指輪をくるんであったはずの綿が別のところにある。
「・・・佐知子さん。悪いけど、クルマのことを考えてくれないかしら」
佐知子が「クルマはいいから指輪を」と言ったのは、本心だったようだ。本人のいちばん見つけたい探し物・・・スコープで見えるのは、その時もっとも意識している物なのだ。佐知子が無意識に思い浮かべた『探し物』は、綾子の指輪だった。茉莉は、なんだか嬉しくなった。やはりこの二人は、お互いを思いあっている。

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