ヒルトップにようこそ 47

 この部屋も、荒らされた様子があったが、ほかの部屋とは違って、少し丁寧に探したようだ。引き出しや棚が探られた感じはするが、何でもかんでも引っ張り出すわけではなく、慎重に探し物をした様子が窺える。床やテーブルに散乱したものはなく、むしろ必要以上に片づけられている感じすらする。
 マスターは、一通り暗室を確認すると、浴室と、トイレを簡単に確認して、玄関に戻った。
「マスター。どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
玄関から出ると、綾子が心配そうに見つめている。
「やっと『マスター』と呼んでくださいましたね。お待たせしました。中、ご覧になります?」
「『ご覧になります?』って、葛西さん、いらっしゃらないんでしょ」
「ええ、正直言うと、いらっしゃらなくてホッとしてるんです。死体がいらっしゃったら困っちゃうところでしたからね」
綾子の顔色が、見る見る蒼ざめていく。
「死体って、どういうことなんですか? まさか、葛西さん・・・」
「あ、大丈夫ですよ・・・たぶん。びっくりさせてすみません。でも、ドロボウには入られちゃったみたいですね」
「まあ・・・」
「とりあえず、中を一度、ご覧になってください」
促されるまま、綾子は葛西沙織の部屋に入ってみた。
「あ、指紋、気をつけてくださいね」
玄関から、そーっとリビングの方をのぞき込んだ綾子は、
「きゃ」
と小さく叫び声を上げた。
「ひどいですね。あんなに荒らすなんて」
「私の部屋は、普段でもあんな感じですけどね」
「警察を呼んだほうがいいでしょうか?」
「どうでしょうね。私たちが警察を呼ぶってのも、筋が違う感じもしますしね。しばらくは待って、葛西さんにお任せしたほうがいいかもしれません」
「そうですね。何を盗まれてるかもわかりませんしね」
「いえ、たぶん盗られたのは、フィルムや写真の類いでしょう。暗室が作ってあったんですが、その暗室にも、ほかの部屋にも、フィルムの類いは一本もありませんでした」
玄関から出て、エレベーターに向かいながらマスターが説明した。

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