ヒルトップにようこそ 50

 ・・・。
「ぷっ!」
一瞬間(ま)を置いて、綾子が吹き出した。
「あ、あれ? 怖くなかったですか? けっこう渋く決めたつもりだったのにな」
「マスターって、真剣な顔の時と、冗談の時と、目が全然違うんですもの」
「そうですか?」
「さっき、『部屋に戻れ』って言われたときの方が、目がよほど怖かったですよ」
「・・・でも、一瞬でもビビりませんでしたか?」
「全然」
ガックリと肩を落としたマスターは、気を取り直して、
「さあ、ここからは、こちらでやりますから、もう綾子さんは、仕事に戻ってください」
「もう、今更仕事にも行ってられませんわ。ここまで来たら、お手伝いいたします」
マスターは、困ったものだと、肩をすくめた。
「じゃ、地味な仕事になりますが、お手伝いいただけますか?」
「もちろん。喜んで。で、何をすればいいでしょうか?」
「お家で電話番してくださいますか?」
綾子は、明らかに不満な顔つきになって眉間にしわを寄せた。
「さっきみたいに、気を遣っていらっしゃるんじゃないでしょうね」
「いえ、私は携帯を持ってませんし、茉莉ちゃんと佐知子さんに連絡をとろうと思ったら、一番便利なんです。それから、階下(した)の葛西さんが、もし戻ってみえたら、どうされるか注意しておいて欲しいんです。」
マスターは、綾子の目を見ないように、というよりは、自分の目を見せないようにユーノスの方を見ながら言った。
「・・・わかりました。葛西さんが戻られたら様子を見ておけばいいんですか?」
「そうですね。もし警察が来たら、『駐車場の交替の件で昼にお邪魔した』と適当に繕(つくろ)っておいてください」
マスター自身は、葛西佐織はたぶん今日は戻らないだろうと思っていた。だが、綾子をこれ以上巻き込まないためには、上々の口実になった。

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