ヒルトップにようこそ 79

茉莉は話題を変えてみた。
「もう、何だか大変なことになっちゃって、お姉ちゃんにも随分心配かけたから、今夜正直に言って、謝ろうと思うの」
「そう・・・」
「でも、ホント言うと、言い出しづらいな。茉莉さん、何かいい切り出し方、ないかしら」
「うーん、難しいわね」
茉莉は、運転しながら考え込んでしまった。しばらく無言でハンドルを切っていた茉莉が、ためらいがちに口を開いた。
「もしよかったら、明日まで内緒にしておかない?」
「え、それはかまわないけど・・・」
「いいこと思いついたの。明日、お姉さんが仕事に出たら、お邪魔していい?」
「え、ええ。ところで・・・これはどうしようかな」
佐知子が、ポケットから大事そうに取り出した指輪に視線を落とした。
「お財布の中にでも大事に仕舞っておいたら?」
「そうするしかないわね。もうなくさないようにしなきゃ」
「なくしたら、またスコープしてあげるわよ」
茉莉が佐知子の方を向いてウィンクした。ちょうどその時車は佐知子のマンションにさしかかった。
 マンションの前に車を駐めた。
「家に寄って、お茶でも飲んでいってよ」
車を降りながら、佐知子が誘ったが、茉莉は、
「ありがと。でも、一度『ヒルトップ(おみせ)』に寄っていくから、今夜は失礼するわ。遅くなっちゃったし」
と、丁重に辞退した。佐知子は残念そうだったが、無理には引き止めなかった。
「そう、とにかく、今日は本当にありがとう。マスターにもよろしくね」
「うん、伝えとく」
「いいなあ、茉莉さんには素敵なお相手がいて」
一瞬間を置いて、
「『素敵なお相手』って、マスターのこと? 全然そんなんじゃないわよ」
茉莉は真っ赤になって否定した。マスターが私の『お相手』だなんて、とんでもない。
「ばかなこと言ってないで、お姉さん心配してるから、早く帰りなさい」
と言い残して、逃げるようにアクセルを踏んだ。ヒルトップへの短い道のりの間、茉莉はまだこだわっていた。マスターが「素敵なお相手」だなんて、とんでもない。あれ? 「とんでもない」って? 何が?「素敵」ってところが? それとも「お相手」ってところ? そもそも、どっちにとって「どんでもない」の?
 なんだか、考えているうちに、わけが分からなくなってきた。今日はただでさえいろいろなことがありすぎて、頭がくたびれている。東南アジアに売り飛ばされそうになったり、拳銃の銃口を突きつけられて、危うく殺されそうになったり・・・。でも、不思議と本当に危ないとは思わなかった。心の底で、誰かが無事助けてくれるような気がしていた。誰か? それはやはりマスター?
 頭の中がまた迷路に入りそうになったところで、ヒルトップに着いた。

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