ヒルトップにようこそ 81

「別に、隠してたわけじゃないよ。言いふらすことでもないし・・・」
と言いながら、マスターは、自分用にコーヒーを一杯注いだ。
「バウンティー・ハンターって知ってるか?」
「バウンティー・ハンター? 聞いたことないわ」
「日本じゃ、あんまりいないだろうからな。日本語で言えば、賞金稼ぎだ」
「賞金稼ぎ! そんな商売が、ホントにあるの?」
「アメリカにはね。俺、こう見えても、昔は金持ちのボンボンでな、両親と一緒に、10歳からアメリカにいたの。で、ちょっと事情があって、15の時から、たまたま知りあった、賞金稼ぎのおっちゃんにいろいろ教えてもらったんだ。まあ、弟子入りみたいなもんだな」
「で、賞金稼ぎになったわけ?」
「まあね。その間、いろんな事件の犯人をとっ捕まえながら、実戦的な格闘術や、ナイフの使い方、銃の撃ち方、車やバイクの運転、カギの開け方、盗聴の仕方、その他とにかくありとあらゆることをたたき込まれた。なんだか、俺、その線の才能があったみたいで、けっこう賞金を稼いだんだぜ」
「でも、危険なんでしょ」
「そりゃそうさ。今や、ある意味軍隊よりも実戦的だもんな。撃ち合いになることもちょくちょくあるし、2メートル以上あるような黒人と素手で喧嘩しなきゃならないなんてこともあるしね」
ここで、コーヒーを一口すすって、
「アメリカ(むこう)じゃ東洋人って、みんな子供に見えるらしくてな、で、俺、実際子供だったから、ナメられないために、ヒゲまで伸ばして苦労したんだぜ。報酬も悪くないんだけど、それ以上に危険が大きいな。仲間の賞金稼ぎの葬式には、3回出た。車イス生活になったヤツもいる。まあ、あまりまっとうな人間はやらないものかな」
「で、どうして今は喫茶店なの?」
「なんかね、自分なりに賞金稼ぎに向いてるのかな、とも思ってたんだけどね。俺みたいにか細い神経じゃ、一生続けるものでもないな、とも思ってね。8年間やって、やめる決心をした。師匠も残念がってくれたけど、快く認めてくれたよ。・・・『か細い神経』ってところは笑うところなんだけど・・・」
笑う状況じゃない、と茉莉は思ったが、黙っていた。
 マスターは、またコーヒーをすすって、そのカップを見つめながら、
「遊んで暮らせるほど賞金稼いだわけじゃないけど、日本に戻って少しのんびりしようと思ってね」
マスターは、コーヒーを飲み干すと、
「ま、今になって、あの頃のまね事をすることになるとは思わなかったけどね」
と言って、コーヒーを注ぎ足すために立ち上がった。
 茉莉は、思いも寄らないマスターの過去に驚くとともに、今までのことに合点がいった。アメリカで賞金稼ぎをやっていたなら、自動車窃盗団程度、怖くないのも当たり前か。武器の扱いにも長(た)けているはずだ。
「まさか、これを機会に、また賞金稼ぎに戻っちゃったりしないよね」

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