ヒルトップにようこそ 82

「しないしない。今のところ、充分満足してるもん。第一、日本じゃ賞金稼ぎなんてできないし。今は、喫茶店のマスターさ」
マスターは片目をつぶって見せた。それを聞くと茉莉もなんだかホッとした。
「疲れたろ。遅くなっちゃったから、送っていこうか?」
「ううん、大丈夫。車だから。・・・あ、そうだ、これ返さなきゃね」
と言って、茉莉は、ポケットの中から、あの安産のお守りをとりだして、マスターに渡した。
「おう、これは、俺が、賞金稼ぎだった頃に、二度、命を助けてくれたんだ」
「へえ、御利益あるんだ。・・・マスター、今日はホントにありがとう。」
「ああ、またピンチの時には、お守りを貸してやるぞ」
マスターこそが、私のお守りだったわ、と思いながら、茉莉は店を出た。

 金曜日になった。十時少し前に、佐知子が店に来た。
「おはようございます。キリマンジャロください。モーニングは抜きで」
「あ、おはよう。昨夜はよく眠れた?」
茉莉が水とおしぼりを佐知子のテーブルに置きながら聞いた。佐知子は、
「うん、疲れてたのね。ぐっすり眠れたわ」
と答えて、カウンターの奥のマスターに声をかけた。
「マスター、昨日はありがとうございました。お姉ちゃんも、くれぐれもよろしくって」
「どういたしまして。お姉さんにも、また是非コーヒー飲みにきてくださいって伝えてね」
「お姉さんはどう?」
茉莉が聞いた。
「うん、元気に会社に行ったわ。今週、二回も休んじゃったから、仕事がたまっちゃってるって」
「そう、でも、今夜はきっと大喜びね」
「また、シーツ破いたししてね」
佐知子の言葉に、二人は思わず吹き出した。
 佐知子は、キリマンジャロをゆっくりと飲んだ。本当は一刻も早く部屋に戻りたかったが、モーニングザービスの時間が終わって、茉莉の仕事が一段落つくのを黙って待っていたのだ。そして、客足が引けたのを待って、
「茉莉さん、いいですか?」
と、遠慮がちに尋ねた。茉莉がマスターの方を見ると、マスターは、片目をつぶって親指を立てた。

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