ヒルトップにようこそ 89

「あはは、さすがにうんちくは詳しいみたいだけど、鑑定眼の方はまだまだみたいね。見間違いよ。マスターがそんな高価なものをくれるわけないでしょ。よく出来たガラスに決まってるじゃない」
「えー、そうかなあ。絶対間違いないと思うけどなあ」
佐知子は首を傾(かし)げていたが、すぐに快活な調子に戻って、
「ま、とにかく、よかったら今度、何かアクセサリーでも買いに来てね。いいルビーの見分け方を教えたげるよ」
「ありがと。うんと安くしてね」
ここで、佐知子は、急に思いついたように、
「そうだ、茉莉さんのスコープって、探し物を見つけられるんだよね?」
と、話を切り換えた。
「うん、まあそうだけど?」
「あたし、すっごい大事な探し物があるんだけど、探せる?」
「何?」
「カ・レ・シ。あたしの彼氏になる人って、どんな人で、今、どこで何をしてるかスコープしてみて」
とんでもないことを言い出した。
「えー、そんな漠然としたものはスコープしたことないなあ」
と、答えたものの、茉莉自身も、そういうことが自分に出来るなら面白いという興味もあって、とにかくスコープしてみることにした。
「じゃ、好きな人とか、好きなタイプの男性のこととか、何でもいいから強く思ってください。で、おでこ出して」
茉莉は、佐知子のおでこに手を当てて、目を閉じた。さすがにもやがかかっているようでよく見えない。しかし、ぼんやりと男性らしきシルエットが見えてきた。どこかで見たことがあるような感じだ。そしてはっと思い当たった。何となく、村上幸一に似ている感じだったのだ。姉妹(きょうだい)で、同じような好みなのか、それとも、佐知子が村上に寄せる好意が、スコープに影響を与えたのか。
「男性のシルエットは見えるけど、顔なんかははっきり見えないわ。残念でした」
茉莉は、スコープした男性が、村上似だったことは、言わずにおいた。と同時に、口ひげを生やしていなかったことに、なぜか少しほっとした。
 佐知子は、ケーキセットを食べた後、お姉ちゃんと内定祝いをやるからと言って、ケーキを二つ、テイクアウトして帰っていった。知ってか知らずか、その二つは、茉莉のレシピのケーキで、片方は、今週からメニューに加わった、あのアールグレイだった。
 佐知子が帰った後、茉莉は、自分のこともスコープしてみようかと思った。私の将来の恋人が、今どこで何をしているかというのは、確かに興味があった。今ここで相手の顔だけでも知っておけば、チャンスを逃さないですむかも知れない。そう思うと、無性にスコープしてみたくなった。茉莉は、自分の額に手を持っていった。手を当てれば、自分の将来の恋人が見えるかも知れない。あと1センチ、あと5ミリ・・・。そこで、しばらく迷った挙げ句、結局その手を降ろした。

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