ヒルトップにようこそ 71

 ボンネットが凹みませんように、茉莉は祈りながら、そろりそろりと移動して、ようやく、ヴィッツの隣の車までたどり着いた。佐知子は、もう下にいて、ヴィッツをのぞき込んでいる。茉莉が車から飛び降りて靴を履き直していると、
「間違いないわ。私の車」
佐知子が涙ぐんでいる。
「感動してる暇はないわよ。とにかく指輪を取り戻しましょ」
茉莉が促した。佐知子は慌てたようにキーを取りだした。助手席側は、隣の車とくっついているため開くことができず、扉に近い、運転席側にまわった。
 トンッ、と軽い音とともに、ヴィッツのドアが開いた。急いで助手席側のグローブボックスを開けた佐知子は、思わず叫んだ。
「あった!」
グローブボックスから取り出した指輪を持って、佐知子がうれしそうに車から降りてきた。
「これが、綾子さんの指輪・・・」
茉莉は絶句した。スコープで見えてはいたが、今こうして目の当たりにすると、その大きさと美しさに圧倒された。いつまでも見つめていたい気持ちを抑えて、
「さあ、指輪を仕舞って。逃げるわよ」
佐知子もうなづいて、指輪をポケットに入れた。茉莉が先に立って、廊下の様子をうかがった。誰もいない。思い切って廊下に飛びだした瞬間だった。
「きゃっ!」
後ろで、佐知子の短い叫びが聞こえた。とっさに立ち止まり、恐る恐る振り向いた。
 最悪だ。茉莉の後ろでは、佐知子が作業服の男に捕まっていた。男は、左腕で佐知子の首を抱え、右手には、ナイフを持っていた。
「どうやって抜け出したか知らんが、お友達の命が惜しかったら、お姉ちゃんもこっちにおいで。たっぷりかわいがってやる」
作業服の男が、右手のナイフをチラつかせながら言った。
「茉莉さん。逃げて。あたしはいいから、茉莉さん逃げて」
佐知子が叫んだ。茉莉も、本音は逃げ出したかった。実際、ここで二人とも捕まるより、一人でも逃げ出して警察に助けを求めるほうが、正しい方法に思えた。だが、ここで佐知子を見捨てて自分一人逃げ出すことは、茉莉にはできなかった。

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