ヒルトップにようこそ 73

 あまりの展開の早さについていけず、ぼおっと、立ちすくんでいる佐知子と男の間に入って、ナイフを拾い上げてポケットに仕舞うと、マスターは、
「大丈夫でしたか?」
と佐知子に声をかけた。
「え、ええ。ありがとうございます」
我に返った佐知子をマスターの後ろから走ってきた茉莉が抱きしめた。
「ところで、何をしたの?」
転げ回っている男を見ながら、茉莉が聞いた。
「あ、こいつ縛っとかなきゃ」
マスターは、茉莉の質問には直接答えず、ポケットから結束バンドを取りだした。アメリカ映画なんかで、警官が手錠代わりに使う塩化ビニールの紐だ。一見弱そうに見えるが、大の男が引っ張っても絶対に切れない。
 両手の親指を後ろ手に縛ったあと、靴を脱がせて、両足の親指も縛った。マスターは、男の髪を引っ張って顔を上げさせ、ゆっくりと話しかけた。
「君、さっき、『オッサン』って言ったよねえ。あれ、もしかして、僕のこと?」
男は、まだ、目が開けられないらしく、目をつぶったままだったが、もがきながらも、毒づこうとした。
「てめえ、こんなことして、ただで済むと思って・・・」
最後まで言い切らないうちに、男の口の中に、マスターの拳銃の銃口がつっ込まれた。
「君、うるさいね。ちょっと大人しくしてなさい」
銃口を口につっ込んだままマスターが引き金を絞った。
「ぎゅーっっ!!」
男は口を塞がれたまま、妙な声で絶叫し、もがきながら失神した。口からは、赤い液体が垂れている。茉莉は血かと思ったが、それにしては色が薄い。
「マスター、これ、まさか・・・」
「そうだよ。タバスコ。店から持ってきちゃった」
茉莉は、タバスコを目にかけられたり、口の中に大量に流し込まれる様を想像した。まだホンモノの拳銃で撃たれたほうがマシかもしれない。
「さあ、逃げようか」
そうしたいのは山々だったが、茉莉と佐知子は、お互いの顔を見合わせてうなずいた。そして、茉莉がマスターの顔色を見ながら切り出した。
「ねえ、マスター。実は、もう一人捕まってるの。できればその人も連れ出せないかしら」
「葛西さんかな?」
「え、何で知ってるの?」
「まあ、その人の残してくれた手掛かりでここまで来られたわけだからな」
「じゃ、いい?」
「とにかく急ごう」

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック