ヒルトップにようこそ 74

 さっきまで監禁されていた部屋へ戻ると、「ミッションコード『脱色』」で、茉莉にぶん殴られた男が、まだズボンとベルトで縛られたまま倒れていた。
「これ、茉莉ちゃんたちが? ひどいことするねえ」
倒れている男の口にタバスコを流し込んだ男に言われたくないと思いながら、茉莉と佐知子は、ソファに横になっている葛西佐織の元へ駆け寄った。
「百万とはいかなかったけど、援軍を連れてきました」
茉莉の呼びかけに、葛西はにっこりと微笑んで応えた。
「じゃ、行きましょうか。動けますか?」
マスターが、ソファのそばに寄って葛西をおぶって立ち上がった。
 入り口の様子をうかがいに行った茉莉が、
「ひっ!」
と小さな悲鳴を上げた。
「どうし・・・キャッ!」
入り口に駆け寄ろうとした佐知子が、あとずさってきた。それに続いて、不自然に両手を挙げた茉莉、その後ろから、事務室にいた、派手なスーツの男が、茉莉の髪を左手でつかみ、右手に拳銃を構えて入ってきた。マスターの持っていた水鉄砲とは明らかに違う、不気味に黒光りした拳銃であった。
「おやおや、ゲストが増えていますね。でも、申し訳ないが、男じゃ売り物にならないなあ」
スーツの男は、口元で笑いながら言ったが、目は冷たく光っていて、まるで感情というものが感じられなかった。
「こう見えても、その線のお兄さん達には、けっこう人気あるんだけどね」
マスターもいつもの笑顔のまま言ったが、その声も、感情が感じられない、冷たい声だった。そして、トーンを変えて、おぶっている葛西に向かって、
「ちょっと降ろしますね」
と、優しく語りかけて、ソファに降ろそうとした。その時、
パンッ!
と意外と小さな、軽い音とともに、銃口が光った。三人の女性から、同時に悲鳴が上がった。銃弾は、マスターの左の耳元をかすめて、後ろの壁に、小さな穴を開けた。
「動くな!」
男が短く叫んだ。マスターは、拳銃の発射にも、男の言葉にもまるで気がつかなかったようにそのまま葛西をソファに降ろして、男に向き直った。そして静かに言った。
「危ないなあ。当たったらどうしてくれるんだ」
思いも寄らないマスターの反応に、男はさすがに目を丸くして、茉莉の髪を引っ張って引き寄せ、銃口を今度は茉莉に向けた。
「おいおい、立場をわきまえろよ。今度穴が開くのは、この娘の顔になるぜ」
目は相変わらず冷たく光っていたが、今度は、声に勝ち誇ったような響きがあった。

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