ヒルトップにようこそ 10

 10月の風が、茉莉の長い髪を揺らした。ストレートロングの髪は、茉莉自身さほど気に入っているわけでもないのだが、マスターがいたく気に入っているので、何となく伸ばしたままになっている。緩やかにウェーブのかかった綾子の髪を見ながら、私も今度パーマでもかけようかしら、と茉莉は思った。  ポプラ並木は少しずつ色づき始めていた。店では何となく小…
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ヒルトップにようこそ 9

 綾子の、指輪に対する思い入れは、よほどのものなのだろう。指輪自体は、まるで今ここにあるかのようにはっきりと見える。確かに、うそ臭いくらい大きなダイヤ(一庶民の茉莉には、ここまで大きいと、かえってガラス玉のようにも見える)を真ん中にして、小さな(と言っても、まともな指輪が一つ作れるくらいの)ピンクダイヤが二つ。しかし、まわりの様子がよく…
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ヒルトップにようこそ 8

「月曜日に外したわけですね。それで、ケースに入れて、どうしたんですか?」 「ドレッサーに入れたつもりなんですが・・・。ケースはドレッサーの引き出しにありました。でも、今朝、何となく取り出してみたら、中身だけがなくなっていたんです」 今は、水曜日の昼下がりだ。指輪を外してから丸二日の空白がある。 「他になくなっているものはないんです…
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ヒルトップにようこそ 7

 彼女の名前は、杉本綾子。この近くのマンションで妹と二人暮らし。半年ほど前に知りあった村上幸一という男性と恋に落ち、この前の日曜日にプロポーズとともにその指輪を贈られたそうだ。 「どんな指輪なんですか?」 『スコープ』のイメージのため、というよりは、どちらかというと個人的な興味から茉莉が聞くと、綾子は少し戸惑って答えにくそうに、小さ…
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ヒルトップにようこそ 6

 「少々お待ちください。今、担当の者をよこしますので」 ちょっと残念そうな表情を浮かべてマスターが戻ってきた。 「茉莉ちゃん、出番」 さっきの態度とは随分ちがうぞ。 「いつからあたしは『担当の者』になったんですか」 「まあまあ、お願いね」 コーヒーを淹れ始めたマスターに代わって、茉莉が隅のテーブルに向かった。 「あの、一応…
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ヒルトップにようこそ 5

 茉莉がおしぼりと水をトレイに載せていると、 「あ、オレが行くからいいよ。茉莉ちゃんはケーキを作るんだろう?」 珍しく優しいことを言うものだと思いながら振り向くと、鼻の下の伸び切ったマスターがトレイをさらった。近所のおばちゃんが来た時は絶対に自分でオーダーなんか取りに行かないくせに、相手が美人だとこうなのか、と思うと、茉莉は仕事が楽…
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ヒルトップにようこそ 4

 「マスター、また挑戦していいですか?」 「おっ、8回目だね。今度は期待してるよ。なんせ、この前の異常に酸っぱいチーズケーキには参ったからな」 「レモン風味のチーズケーキにしようとしたんですよ。マスターが酸っぱいものに弱過ぎるんですよ」 「あれは『レモン風味』じゃなくて、そのものズバリ『レモン味』だ」 「今度のヤツは酸っぱくなら…
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ヒルトップにようこそ 3

 茉莉には、実は特殊な能力があった。「超能力」ってほど強力なものではないが、人が探しているものの在処(ありか)を見つけるという能力だ。適当な言葉がないので『スコープ』と呼んでいるのだが、探している人の額に手を当てて目を閉じると、その探し物と、周りの様子が、ちょうど顕微鏡や望遠鏡を覗いている時のような映像で、まぶたに浮かんでくる。ただ、見…
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ヒルトップにようこそ 2

 「・・・ちゃん、茉莉ちゃんってば」 ヒマに任せてぼんやりとくだらない空想にふけっていた茉莉は、マスターの声で現実に引き戻された。 「はい、マスター?」 「ごめん、ポップ用のマジックってどこ行っちゃったっけ? ちょっと『スコープ』してみて」 「またですか?」 マスターは、どうも、「物を整理する」という能力が欠乏しているようで、…
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ヒルトップにようこそ 1

 駅前通りのポプラ並木を東に向かって歩いて10分くらい、少し小高い丘の上に喫茶『ヒルトップ』がある。こぢんまりとしたレンガ造りのちょっとこじゃれた店だ。でも、このあたりは、高級な住宅街が広がっていて、どの家も一見喫茶店のような形をしているためか、知らなければつい通り過ぎてしまうような、さりげない店である。  茉莉(まり)がこの店でアル…
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