ヒルトップにようこそ 39

「とにかく、東南アジアなんかに持ってかれちゃう前に、クルマを見つけなきゃ」
「・・・そうだな」
マスターが、思いのほか素直に引き下がった。こういう時は、言葉とは裏腹に、いつまでもこだわっているということを茉莉は知っていた。だが、マスターの方から話題を切り換えてきた。
「ところで、『運』って文字が見えたんだね」
「あ、そうそう。よくあるじゃない。窓のガラスのところに、会社名とか書いてあるやつ」
「窓一枚に一文字ずつ大きな文字が書いてある感じ?」
佐知子が聞き返すと、茉莉は大きく頷いた。
「うん、だから、会社名かなんかのうちの一部に、その『運』って字が入るんじゃないかと思うの」
「『運』ねえ、ナントカ運送とか、ナントカ運輸とかかな」
佐知子の答えが、模範解答のようだった。マスターも天井を見つめるようにしながら、
「運動場や、運転免許試験場の倉庫、運動具店に、運転代行業、運輸省なんてのも、ないではないけど、可能性は薄いかな」
「マスター、タウンページと、地図貸してくれない?」
「はいはい」
と言いながら、マスターは、駐車場のユーノスから地図をとり出して、ついでに店の入り口の公衆電話のところから、タウンページを持ってきた。
 茉莉と佐知子が、テーブルの上に、タウンページを広げて、額をくっつけるようにして、ページをめくり始めた。ここまで手がかりがつかめたら、今すぐにでも探し当てられるような期待があった。佐知子も、スコープはできないが、怪しげな倉庫に並んだクルマの中のヴィッツの姿が目に浮かぶようであった。
「まずは、やっぱり運送屋さんよね」
佐知子の言葉に、茉莉は、また「うん、そう」なんて言わなきゃいいが、と思いながら、マスターの様子をうがかっていたが、マスターはカウンターの中でぼんやりしたまま、無反応だった。くだらないことを考えた自分が恥ずかしかった。
 事の重大さとは無関係にどこかワクワクする気持ちを抑えつけながら、ページをめくっていくいちに、
「う・・・そ」
と、思わずつぶやいてしまった。
「運送屋って、こんなにあるの?」
佐知子と顔を見合わせた。大小さまざまな広告を含んで、何ページにもわたって運送屋が掲載されている。さっきまでの、すぐにでも見つけられそうな期待感が一気にしぼんでゆく。佐知子が、
「と、とりあえず、大っきな広告の、有名な会社は除外していいかしら?」
と言うと、茉莉も、
「そ、そうね。あと、『運』のつかない会社も除外できるかな」
と少しでも候補を減らすことを提案しあった。

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