ヒルトップにようこそ 40

 茉莉と佐知子は、まずはタウンページの中から、会社名に『運』の字のつく運送屋を手当たり次第ピックアップし始めた。この街だけで、四十六件の会社がピックアップできた。これでも、全ての運送会社の半分弱である。『運』の字を使わない運送会社が、案外多くて助かった。その中から、二人の意見で、明らかに有名な会社は外してゆき、二十八件に絞った。他の業種や、近隣の他の運送屋はとりあえずあと回しにしようということになった。
 タウンページに線を引くのが一段落つくと、今度はマスターの地図に赤ペンでチェックしてゆく。
 何分か後には、ジンマシンのようにボツボツと赤くなった地図ができ上がっていた。半ばあきれながら成り行きを見守っていたマスターが、
「で、どうするの? これから」
と聞くと、
「一つ一つまわるしか、ないかな」
茉莉が、佐知子と顔を見合わせながら、うんざりしたように答えた。そして、甘えるような声で茉莉がマスターに言った。
「ねえ、マスター、車貸してくれる?」
「やだ」
マスターが即答した。
「ケチ」
「茉莉ちゃん、自分の車持ってるだろ。俺の車マニュアルだし、やっぱ、自分の車の方が運転しやすいだろうし」
「わかったわよ。いいわよ。あたしのかわいいマーちゃんで行くから」
「あー、それじゃ、くれぐれも気をつけて。安全運転でね」
「地図とタウンページ、貸してね」
茉莉は、二冊を抱えて立ち上がった。
「佐知子さん、行こう」
「う、うん」
佐知子も、茉莉の勢いにつられて立ち上がり、後について、出口に向かおうとした。マスターが佐知子に、小声で
「ヘルメット貸そうか?」
と話しかけると、入り口のあたりにいた茉莉が、
「聞こえてるわよ! 大丈夫よ。上手くなったんだから」
と大きな声を出した。マスターは、真剣な顔で、
「運転はともかく、慎重にな。犯人が窃盗団だったら、マジやばいぞ。見つけても、絶対無理しないで、すぐ警察を呼べよ」
マスターに言われて、自分がいかに危険なことをしようとしているか、初めて気がついた。車を探すことに夢中で、自分が相手にしようとしているのが犯罪者かもしれないということを忘れていたのだ。
「うん。わかった。気をつける。でも……」
マスターは一緒に来てくれないの、と言いたかったが、言えなかった。甘えてばかりはいられない。
「いよいよヤバくなったら、これを使え。絶対助けてくれる」
と言いながら、マスターが渡してくれたものは、ボロボロになった、安産のお守りだった。茉莉は、
「マスター、一体、何を考えてるの?」
「まあ、御利益(ごりやく)は確かだから、一応持ってけ」
仕方なしにそれを受け取ると、罰(ばち)が当たってもこわいので、大事にポケットにしまった。
「一度私の家へ車を取りに戻りましょう」
店を出ると、茉莉は佐知子と肩を並べて歩き出した。ヒルトップから茉莉の家までは、歩いて十分くらいである。
「マスターって、面白い方ですね」
「いい歳して、冗談ばっかり言ってるのよね」
「『いい歳』って、おいくつなんですか?」
「えっ? あ、さあ……?」
改めて聞かれると、茉莉も返事に困った。
「知らないんですか? 25くらいかなあ」
25? マスターに言ったらさぞ喜ぶだろう。それとも、実際それくらいか?
「でも、なんだか一緒にいると元気になりますね」
佐知子の頬が赤く見えたのは、冷たい風のせいだろうか。それとも・・・。

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