ヒルトップにようこそ 83

 二日ぶりの、綾子と佐知子の部屋は、一昨日よりも少し、こざっぱりと片づいていた。部屋に入るなり、茉莉は佐知子に尋ねた。
「掃除機、どこ?」
「掃除機? ここだけど?」
一昨日は、適当に引っ張り出されていたが、今日はリビングの隅の押し入れに片づけてあった。一昨日チラッと見たときは、もう少し青っぽく見えたが、よく見ると濃い紺色だった。これはおあつらえ向きだ。
「まさか、これにすいこませるの?」
「当たり。黒っぽいプラスティック。よかった、『黒』って断言しなくて」
「間違って吸い込んじゃったことにするのね。コットンはどうしよう? コットンでくるんであったら不自然よね」
「そうね、だから今日は佐知子さん、一生懸命掃除してね。綿ぼこりをいっぱい吸い込んで」
「綿ぼこり・・・、大丈夫かなあ」
佐知子が、不安そうに言った。茉莉は、自信満々に答えた。
「だって、スコープした光景は、私しか見てないんだもん。コットンだってホコリだってどっちも『綿』なんだから、オッケー、オッケー」
「『オッケー、オッケー』って・・・茉莉さんって思ったより、大ざっぱなんですね」
こーゆー所は、マスター仕込みだ。最近、細かいことを気にしなくなってきたのは、果たしていいことなのか、それとも・・・。
 早速、指輪を置いて、掃除機で吸わせることにした。
「まさか、重くて吸い込めないなんてことはないよね」
いよいよ吸い込むときになって、茉莉はふと不安に駆られた。
「まさか、いくらなんでも大丈夫でしょ」
佐知子は答えながらも、言われてみると、そのまさかなんじゃないかという気がした。恐る恐る、吸い口を近づけて、スイッチを入れた。カランカラン・・・と、軽快な音を立てて、指輪は吸い込まれていった。さすがに最近の掃除機は強力だ。600万円を軽々と吸い込んでしまった。
「さあ、後は、大掃除ね。頑張ってホコリを吸い込んでね。で、お姉さんが帰ってきたら、『ヒルトップ』に連れてきて。もう一度スコープするから。じゃ、私は帰るわね」
「えー、手伝ってくれないの?」
「あのねえ、私も、バイトの立場だから、あんまり休んでばかりいられないの。それに、掃除機は一個しかないんだから、二人いてもしょうがないでしょ」
確かに、掃除が目的じゃない。
「はーい、じゃ、また夕方ね」
「サボんないで、しっかり掃除するのよ。部屋もきれいになって、一石二鳥でしょ。いっそ、私の部屋も掃除してもらおうかしら」
玄関でブーツを履きながら、ホントにそうしてもらおうかしら、と茉莉は思った。

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