ヒルトップにようこそ 86

佐知子が先に立って店に入ってきながら、後ろの綾子に見えないように小さくピースを出してウィンクしている。そして、後から入ってきた綾子の左手の薬指には、あの指輪がしっかりとはめてあった。綾子は指輪をはめた左手を茉莉に見せながら、
「ありがとうございました。見つかりました。私も佐知子もお世話になりっぱなしで・・・。本当にありがとうございました」
と綾子は繰り返した。初めて店に来た時とは、別人のような明るい表情だった。こういう表情の綾子と佐知子は、本当によく似ていた。
「あの・・・、探偵料は、いくらくらいになるでしょうか?」
「いえ、探偵ってわけじゃありませんから、お金は要らないです」
「でも、それじゃあ申し訳ないわ。二人揃ってお世話になったんだし。何かお礼をさせてください」
「そうよ。指輪もヴィッツも、茉莉さんのおかげで戻ったんだから」
佐知子も真剣な顔で訴えた。茉莉は少し考えて、
「じゃあ、時々お店に来てください。それで、ケーキを食べていってください。私の作ったケーキもあるんですよ。それから、もしよかったら、お友達にもお店を宣伝してください。ご覧の通り雰囲気はまずまずだと思うのに、マスターに商売っ気がなくて、お客さんが少ないんです」
綾子と佐知子は、顔を見合わせた。そして、茉莉の方を向いて笑った。茉莉も一緒になって笑った。
「わかりました。喜んでケーキをいただきに来ます。じゃ、早速ですけど、ケーキセットをください。『お勧め』のケーキと、ブレンドで」
と綾子が言うと、佐知子も、
「あたしも『本日のお勧め』のケーキセットを、カモミールティーで」
「ありがとうございます。お勧めケーキをセットで2つ、ブレンドと、カモミールティーですね」
オーダーを確認しながら、「カモミールティー」のところで、茉莉は、佐知子だけにわかるようにウィンクした。佐知子も少し口元を動かし、小さく微笑して、それに答えた。
「マスター、オーダー入ります。『お勧め』のケーキ2つ。ブレンドと、カモミール1つずつで」
茉莉は、大きな声でマスターにオーダーを入れた。

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