ヒルトップにようこそ 72

(マスター! 助けて!)
茉莉は心の中で叫びながら、ポケットの上から、マスターのお守りにそっと触れた。そして、仕方なく、両手を上げて、男の方に一歩踏み出そうとした。
 その時だった。
「そこまでだ! 悪党!」
背後から聞こえた、聞き覚えのある声に、思わず振り向いた。茉莉の後ろには、マスターが、何と拳銃を構えて立っていた。
「な、何者だ!」
男が叫んだ。
「見て分からんのか。喫茶店のマスターだ」
ジーパンにジャケットといういでたちでは、見ても分からんと思うが、マスターは妙に自信満々で言い放った。
「マスター!」
茉莉は、半分泣きながら、マスターにしがみついた。
「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」
マスターは、茉莉にウィンクすると、男に向き直った。
「痛い目に会いたくなかったら、そのお嬢さんを放すんだ」
拳銃を、男の眉間に向けた。なんでマスターが拳銃なんて持っているんだろう、茉莉は、不思議に思いながらも、「昔、ヤバい仕事をしていた」と言ったマスターの言葉が、今、妙に実感を伴って思い出された。ところが、マスターがきてくれた安心感から、落ち着いてよく見てみると、どうもこの拳銃は安っぽく見える。
「マスター、この銃・・・」
茉莉が小声で話しかけると、マスターは男を睨みつけたまま、
「しっ!」
と制した。茉莉は、今になって震えてきた。マスターの持っているのは、水鉄砲だ。マスターはこの場をハッタリでしのぐ気なんだ。でも、バレたら・・・。
 作業服の男は、さすがに驚いたらしく、しばらくは硬直していた。右手のナイフは佐知子ののど元に押し付けたまま、目を丸くしたり、細くしたりしながら、拳銃の先をじっと見ていた。そして、勝ち誇ったように笑いだした。
「おい、オッサン。てめえまさかそんな水鉄砲でこのナイフと勝負しようってんじゃねえだろうな」
少し間を置いて、マスターが言った。
「・・・あれ? バレた?」
茉莉と佐知子に絶望の表情が浮かびかけた。
「何で分かった?」
マスターが真顔で聞いた。
「そんな銃口じゃあ、爪楊枝くらいしか撃ちだせねえよ」
つられて、真面目に答えた男が、再び笑いだした。ゲラゲラ笑いながら、ほんの一瞬、ナイフを佐知子ののど元から離した。その時だった。マスターは、男の顔めがけて引き金を引いた。茉莉には赤い線が走ったようにしか見えなかったが、その赤い線が男の目の辺りに命中した。
「ぎゃああ!!」
男は佐知子を突き飛ばし、ナイフを放り出すと、両手で顔をこすって、転げ回っている。

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