ヒルトップにようこそ 30

 ユーノスがクルマのディーラーに着いた時には、完全に日が暮れきっていた。店の中には、何台かのクルマが展示してあって、自由に乗り降りできるようになっている。 「あのクルマじゃないか? 佐知子さんのクルマ」 マスターが指さした先には、まさにメタリックピンクのヴィッツが展示してあった。 「うん、そうそう、あれだわ」 「勝手に助手席に乗…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 29

「やっぱり、佐知子さんだったんだ」 「おいおい、クルマ持ってるだけで犯人扱いするのは早計じゃないのか。まあ、泥棒が入ったんでなきゃ、妹が持ってても不思議じゃないけどな」 「ジュエリーが好きって言ってたわ。宝石屋さんで働きたいって言ってたし。それに・・・」 「それに?」 「さっき『ヒルトップ(おみせ)』で探偵の話したでしょ。私が綾…
トラックバック:1
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 28

 しばらくして、 「おーし、帰るか」 と言いながら、空き缶をゴミ箱に投げ入れようとしたマスターは、ゴミ箱のふちに当たってはじかれた缶を慌てて拾いに行って、なんと缶を持ったまま戻ってきた。そして、また同じところから投げている。 「何やってるんですか?」 「男のロマン」 空き缶を投げ入れるのが男のロマンだとしたら、私には一生理解で…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 27

 「本日は終了しました」の札を入り口に掛け、店の駐車場のいちばん奥にあるマスターのユーノスに向かった。マスターはまず助手席側にまわって、ドアを開けてくれた。こういうエスコートはいやに手慣れている。 「よいしょ」 昨日の佐知子のクルマと違って、シートがやたら低いため、思わず声が出た。マスターはクスッと笑ってドアを閉め、運転席側にまわる…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 26

 茉莉は、何となく落ち込んだ気分のまま、午後を過ごした。就職難、婚約指輪、500万、黒っぽいプラスティック、そして探偵・・・。いったい指輪はどこに行ってしまったのか。  いといろな思いが、浮かんでは消え、消えてはまた浮かんできた。自分でそれを打ち消したり、また引っ張り出してきたりして、結局同じところをぐるぐる回っていた。そして行き着く…
トラックバック:1
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 25

「人に苦労してるところを見せないところがカッコいいのだ」 全くマスター(このひと)は、物事を真剣に捉えているんだか何だか。私もこれくらい脳天気に生きられたらいいなあ、と、茉莉はいつも思う。 「君も、いろいろ苦労を積んで、立派な探偵になるんだぞ」 マスターがからかった。みんなして私を探偵にしたいらしい。  探偵か・・・探偵!  …
トラックバック:3
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 24

「・・・ごめんなさいね。それはそうと、お姉さんと仲がいいんですね」 「田舎から出てきて二人きりだから・・・。お姉ちゃんはしっかりしてるけど、あたしはがさつだから、親が心配してるの。お姉ちゃんが結婚しちゃって、あたしがこのまま就職が決まらなかったら、田舎へ連れ戻されちゃうの。あたしってば、まるっきり親に信用されてないからね。でも、あたし…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 23

 モーニングサービスの時間が終わって、少し客足が遠のいた時間に、不意に佐知子が店を訪ねてきた。 「いらっしゃいませ・・・あら、佐知子さん」 「こんにちは。約束通り、コーヒーのみに来たよ。・・・あったかいモカください」 茉莉がいきなり(美人の)客と親しげに話し始めたので、マスターが興味津々に、 「誰? 誰?」 と聞いてきた。茉莉…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 22

「えっと、よく分かんないけど、昨日の終り値と、今年の最高値が一緒で、最安値が一月だから、やっぱり伸びてるわよ。でも、その差が一割ぐらいだから、やっぱり堅実に伸びてるって感じね。さすが浜ちゃんだわ。言ってた通り」 「そっか、浜ちゃんも、伊達にウチのコーヒー飲んでるわけじゃなかったな」 マスターが、したり顔でうなずいている。 「それよ…
トラックバック:1
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 21

 「そうか、オレは村上が怪しいと睨んでたんだがな。会社が順調なんじゃハズレかな」 浜田が帰り、店の客が少し減ったところで、マスターが腕組みをしながらつぶやいた。 「なんで村上さんが怪しいんですか?」 茉莉が突っ込むと、マスターは、 「実はな、指輪にうんと保険をかけておいて、村上が自分で盗んじゃったと思ったんだ。フィアンセなら合い…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 20

「経営している村上さんって人、知ってる? 評判とか聞く?」 「ああいうベンチャーのコンピューターのシステム会社ってのは、社長のキャラクターがそのまま会社の性格になるってもんだ。アップルやマイクロソフトだって、ジョブズやゲイツの性格そのままだからな」 「『KMオフィスシステムズ』の場合は?」 「さっきも言ったけどさ、地味だが堅実って…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 19

 翌日、モーニングサービスの時間に、常連の浜田がやって来た。浜田は、50手前の証券マンで、毎朝、キリマンジャロを飲みに来る。モカに比べて酸味の強いキリマンジャロが、朝の寝ぼけた頭をすっきりさせるというのが、浜田の口癖だった。中学生の息子が一人いるが、茉莉を娘のようにかわいがってくれている。  今朝、茉莉はその浜田を待ちかねていた。『K…
トラックバック:4
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 18

 その夜、ベッドに入った茉莉は、今回の出来事を自分なりに整理しようとしてみた。  指輪がなくなった。普通に考えれば、原因は紛失か盗難だろう。紛失の場合、ベッドやソファーの下に入り込んでいるとか、ポケットやバッグの中だろうか。それとも指輪のケースに入れたつもりで、全然違ったケースにでも入れてしまったのか。眼鏡のケースとか、貯金箱とか。そ…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 17

 店には3組ほどの客がいて、それぞれテーブルで話し込んだり、雑誌を読んだりしていた。茉莉はカウンターに座った。 「ただいま」 「お帰り。どうだった?」 すっかり立ち直っていたマスターは、上機嫌だったが、無言で首を横に振った茉莉を見て、 「そっか。ま、そーゆーこともあらーな」 と言って、お茶をいれ始めた。 「まあ、これでも飲ん…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 16

 結局茉莉はそのまま帰ることになった。帰りは、クルマを持っている佐知子が送ってくれることになった。佐知子のクルマは、メタリックピンクの小さなクルマだった。 「ごめんなさいね、お役に立てなくて」 「いえ、そんな。気にしないでください。仕方ないですよ」 茉莉は、気になっていたことを思い切って聞いてみた。 「あの、村上さんって、どんな…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 15

「いいのよ。佐知子。私が悪かったんだから。指輪のお金は、一生懸命働いて、幸一さんにお返しします」 1.8カラットのダイヤ(と、それより両脇のピンクダイヤの方が高いかもしれないが)が、いったいいくらくらいするものなのか、茉莉には見当がつかなかった。それに「村上幸一」なる人物がどんな人だか知らない茉莉にとって、ありのままを話した場合、許し…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 14

ゴミ箱、ドレッサーのほか、ハンドバッグや化粧品入れ、果ては鍋や靴まで、およそ思いつく限りの黒っぽいものをのぞいてみたが、やはりスコープしたイメージとは一致しない。  佐知子の部屋も見せてもらったが、ここにも手がかりはなかった。たくさんの写真立てが並べてあったが、そこには、綾子と二人で写っているものばかりだった。海辺の写真、高原らしい所…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 13

「何なの? どうしたの?」 佐知子が慌てて尋ねた。他人がいきなり部屋に入ってきて、ゴミ箱をのぞき込むのだから、驚いて当然だろう。綾子が慌てて説明した。 「あのね、この前村上さんにもらった指輪、なくなっちゃったの」 「えっ、それで、警察には言ったの?」 佐知子の顔が、少し蒼ざめた。 「ううん。まだ言ってないわ。あまり大ごとにした…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 12

 綾子と佐知子の部屋は5階の503号室。入り口のドアには「AYAKO・SACHIKO SUGIMOTO」というプレートがかかっていて、それが表札になっている。木の板に楽焼きのアルファベットを貼り付けたもので、プレートの隅に小さく「清里」と入っている。 「去年の夏に、妹と旅行してきたんです」 茉莉がプレートを見つめているのに気づいて、…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ヒルトップにようこそ 11

 そんなことを茉莉が考えているとも知らずに、綾子が続ける。 「私の勤めている会社と、彼の会社とは取り引きがあって、時々顔を合わせてはいたんです。それで、半年くらい前からおつき合いするようになったんです。彼は、本当に私にはもったいないくらいの人で、何の取り柄もない私をとても大事にしてくれるんです。それなのに、大事な指輪をなくしてしまって…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more